主文
1 被告は,原告に対し,金9万5955円及び内金9万4373円に対する平成18年8月8日から支払済みまで年26.28パーセントの割合による金員を支払え。2 被告の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,本訴事件及び反訴事件を通じて被告の負担とする。
4 この判決は,1項及び3項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 本訴事件
主文1項と同旨2 反訴事件
原告は,被告に対し,40万5678円及びこれに対する平成19年10月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。第2 事案の概要
1 請求原因の要旨
(1) 本訴事件原告は,被告との間で,平成18年5月17日,金銭消費貸借基本契約(以下「本件契約」という。)を締結した。
本件契約には,利息年利28.95パーセント,遅延損害金年利29.2パーセント,毎月5日に借入残高が10万円以下のときは4000円以上支払わなければならず,毎回の約定の借金返済を1回でも怠ったときは期限の利益を喪失する旨の定めがある。
原告は,被告に,本件契約に基づき,同日10万円を貸し付けた。
なお,利息制限法の制限利率に引き直した取引経過は別紙「貸付・入金明細書」のとおりである。
被告は,同年8月7日に支払うべき分割金の支払いを怠ったので,同日の経過をもって期限の利益を喪失した。
よって,原告は,被告に対し,貸金残元金9万4373円,未払利息1582円,残元金に対する同月8日から支払済みまで年26.28パーセントの割合による遅延損害金の支払いを求める。
(2) 反訴事件
A協会は,経済産業省及び金融庁の指導監督の下に,多重債務者の依頼に基づいて支払可能な弁済計画の策定や支払猶予に関する債権者との交渉などを行い,その生活再建を図るために設立された財団法人である。
被告は,平成18年7月ころには多重債務状態に陥り,消費者金融業者,クレジット業者に対する借受金の返済が困難となり,同年8月1日,A協会に債務整理のカウンセリングを依頼した。
A協会は,2名の者を被告の担当者(以下「カウンセラーら」という。)に付した。
カウンセラーらは,同年9月12日,債権者らに対して,債権届出書等を送付するよう依頼したが,原告から返答がなかったので,同年10月2日に再度依頼したところ,原告から貸付・入金明細書がファクシミリで送信された。
そこで,カウンセラーらは,原告に対し,弁済計画案を策定して提示した。
その内容は被告の資力と他社への分割弁済とのバランスを考慮した現実的で正当なものであった。
しかし,原告は,A協会は被告の委任を受けた代理人ではなく,代理権がないから,和解交渉に応じられないとして,A協会との交渉を一切拒否し,その後,同19年10月23日に本訴を提起した。
原告の交渉態度と本訴提起は,以下の理由で不法行為に該当する。
ア多重債務者には可及的速やかに経済的再建を果たすという利益があり,原告がA協会との交渉を拒否し,時を経過させたことに正当な理由なく,被告の債務整理の最終的な確定は果たされておらず,被告の上記利益を奪うもので,不法行為に該当する。
なお,次の事情等が存在すること等から,A協会との交渉を拒否することに正当な理由は認められない。
@ A協会は,金融庁等の監督を受ける財団法人であり,多数の多重債務者の相談窓口になっている。
A A協会は,消費者側の人間だけではなく,貸金業者側の役員が多数理事や評議員として参加している団体である。
B 原告の同業他社はA協会を交渉相手として認めている。
C 多重債務者対策本部が内閣に設置され,同本部は同19年4月に「多重債務問題改善プログラム」を発表しているが,同プログラムにおいてもA協会によるカウンセリング体制を早急に強化することが掲げられており,A協会の存在及びカウンセリングが国の施策の一部に位置付けられている。
D A協会のカウンセラーは,消費生活アドバイザーと弁護士の二人一組で構成され,A協会による和解提案は実質的には弁護士による債務整理と同視できる。
イ訴えを提起されると,多大な時間,費用を訴訟対策に費やさざるを得なくなるもので,精神的にも多大な負担をかけるものである。
したがって,正当な権利行使ではない訴え提起は,平穏な生活を営む利益を侵害するものとして,不法行為を構成する。
旧貸金業規制法(通称),同法に関する事務ガイドラインによって,貸金業者の取立方法は規制されており,威迫したり,平穏を害するような言動によって困惑させてはならないとされているが,例示に過ぎない。
本件では,原告はA協会を通じて現実的な分割弁済案が提示されたのに,交渉相手がA協会であるとの一事をもって交渉を拒否し,本訴を提起しており,旧貸金業規制法21条の人の私生活の平穏を害するような言動によって,その者を困惑させてはならないという条項に違反し,本訴提起が不法行為に該当することは明らかである。
なお,弁護士介入後に貸金業者が給与の差押手続を進めたことを違法行為とした裁判例,貸金業者による支払督促の申立てを不法行為とした裁判例,弁護士の提案に誠実に対応し,訴え提起等の取立行為に出ることを自制すべき注意義務があり,これに違反した場合に不法行為責任が生ずることがあるとした裁判例がある。
被告は,原告の上記不法行為により,可及的速やかに経済的再建を果たすという利益を奪われ,かつ,私生活上の平穏を害され,その苦痛は甚だしいものがあり,その慰謝料は50万円を下らない。
被告は,上記損害賠償債権と原告の貸金債権とを対当額で相殺する旨の意思表示をしたことから,その残金である40万5678円の損害賠償請求権と不法行為時である同19年10月23日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
2 本訴事件についての被告の答弁及び主張
本件契約に基づく原告と被告間の取引は,別紙「利息制限法に基づく法定金利計算書」のとおりであり,残元金は9万4322円である。その他の点については,反訴事件の請求原因の要旨での主張と同旨である。
被告は原告に対して,50万円の損害賠償債権を有しているので,本訴事件の貸金債権と対当額で相殺する。
3 反訴事件についての原告の答弁並びに本訴事件及び反訴事件についての原告の主張
被告はA協会に相談し,原告はA協会の求めに応じて取引履歴を開示し,A協会は弁済計画案を原告に提示し,原告はA協会に代理権のない相手とは交渉,和解は一切できないと伝え,その後,原告が本訴を提起した事実は認める。国がA協会に認めた内容はカウンセリングであり,その上で,弁護士,司法書士等に紹介誘導することであり,独自に債務者代理人として債務整理を行うことまでは認可していない。
原告は,A協会に対し,代理権を有する者か本人であれば和解交渉に応じる旨回答したが,被告及びA協会はそれに応じなかった。
原告は被告との話し合いを拒否していないにもかかわらず,A協会の独善的な判断の下で何の対処もしておらず,A協会の対応は円満解決及び債権回収の妨げになっており,被告はA協会に何かしら訴えるべきものであり,原告に責任を転嫁するのは誤りである。
原告は,被告との話し合いによる解決自体を拒絶していなかったが,被告から何らの反応もなく,支払停止状態が継続したことから,やむを得ず本訴提起にいたったもので,正当な権利に基づくものであり,不法行為にあたる理由はあるはずがない。
なお,そもそも原告に対して,被告の債務整理の申し出がなされた事実自体が存在しないのであるから,不法行為の前提を欠き,その結論は明らかである。
4 本訴事件及び反訴事件についての被告の主張
(1) 原告の主張に対する反論原告は,A協会の法的代理権の有無を問題にしているので,この点について反論する。
債務者には貸金業者と交渉するノウハウはなく,貸金業者側に情報が偏在しており,債務者本人が貸金業者と直接交渉するのでは,到底適正妥当な解決は図れないから,原告が被告との直接交渉を求めること自体全く合理性はない。
また,A協会はあっせん機関であって,一方的に被告の利益を図るために原告と交渉したものではない。したがって,法的代理権の有無を問題にすること自体何ら合理性はない。A協会は準公的な信用できる機関である。
現に,A協会は,平成19年2月6日,一斉に弁済計画案を債権者に提示したところ,原告以外の全債権者7社(クレジット会社及び消費者金融会社)は,同月中に和解に応じる旨の回答をなしている。
(2) 本訴提起が不法行為に該当すること
弁護士が介入し,和解案を提示した後は,貸金業者はその和解案に誠実に対応し,訴え提起を自制すべき注意義務があり,これに違反すれば不法行為責任を負うとした裁判例や,弁護士が和解案を提示したにもかかわらず,交渉継続中に給与債権を差し押さえた行為を不法行為とした裁判例がある。
A協会は準公的な機関であるから,本来問題とすべきではない法的代理権の有無を理由にしてあっせんを拒絶することは,一私人である弁護士の提案を拒絶した場合より違法性は高いというべきである。
したがって,原告が不法行為責任を負うことは明らかである。
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第3 裁判所の判断
1 本訴事件の請求原因事実のうち,貸付日,貸付金額,返済日及び返済金額については当事者間に争いはない。
当事者双方の主張の違いは,貸付当日分の利息金が発生するか否かという点で,原告は肯定するのに対して被告は否定している。利息は元本を利用する対価の性質を持ち,借主は借り受けた当日から借受金を使用し得るのであるから,貸付当日についても利息は発生すると解するのが相当であり,取引経過は別紙「貸付・入金明細書」のとおりとなる。
また,被告は,平成18年7月4日の返済を最後に支払いをしていない事実が認められ,同年8月7日に支払うべき分割金の支払いを怠っていること,被告自身,期限の利益喪失の事実を認めていること等から,同日の経過をもって期限の利益を喪失し,同月8日から遅滞に陥ったものと認められる。
以上によれば,本訴事件の請求原因事実はこれを認めることができる。
2 次に反訴請求及び被告の主張の当否について検討する。
乙18によれば,A協会は,多重債務者等に対し,消費者保護の見地から,公正・中立なカウンセリングを行い,その生活の再建を図ったり,クレジットの健全な利用についての啓発を行い,多重債務者が発生することを未然に防止することを目的に設立された財団法人で,信販関係の社団法人,信販会社,量販関係の会社,自動車関係の社団法人等からの寄附によって設立,運用され,具体的には,債務整理等に関する相談,助言,他の機関等の紹介,弁済計画案の策定,債権者との交渉等を行っている事実が認められる。乙4,乙19から乙25によれば,B弁護士とC消費生活アドバイザーがA協会の被告の担当カウンセラーに就任し,被告の弁済計画案を策定して,債権者と弁済計画について交渉にあたり,債務弁済契約の締結を成就させている事実が認められる。
乙6によれば,原告は平成18年10月3日付けで,A協会からの依頼を受けて,被告との間の取引明細書をカウンセラーら及び被告あてに電送している事実が認められる。
また,乙5,乙7及び乙8によれば,カウンセラーらは,原告に対する関係でも弁済計画案を策定し,それを原告に提案してみたものの,原告は,A協会が間に入っての和解には応じられない旨主張し,弁済契約の締結にはいたっていない事実が,乙8によれば,原告はA協会に対し,被告本人又は代理権のある弁護士や司法書士との和解の話し合いには応じる用意がある旨を主張している事実が認められる。
以上の各事実を前提として検討するに,被告は,原告がA協会との交渉を拒否したことが違法行為にあたる旨を主張しているが,A協会から交渉やあっせんの申し出があった場合,貸金業者はこれに応じなければならないとする法,規則等の規制は存在しないから,応じないからといって直ちに違法性を帯びることにはならない。
また,乙8によれば,原告は被告本人又は代理人との交渉を望んでいたことが認められるから,それらの者が原告との交渉の席に着けば,支払条件についての話し合いが行われ,債務弁済契約が締結され,被告の債務整理が最終的に確定した可能性が認められ,原告がA協会との交渉を拒否した事実のみを,被告の債務整理確定の遅延に結びつけることは相当ではない。
なお,そもそも原告がA協会との交渉を拒否したことによって,被告の経済的再建が遅れた事実自体,証拠上明らかではない。
また,被告は,A協会の機能,性格,役割等から,原告がA協会との交渉を拒否することに正当理由はない旨主張している。
この点に関し,上記の各証拠からすると,A協会は公益的な観点から多重債務者の債務整理等にあたり,その活動は債務者のみならず債権者にとっても有益であることが認められ,A協会が主体となって策定された弁済計画案は,債務者の支払能力に応じた内容であることから,債務者にあっては経済的再建が,債権者にあっても債権回収が図られる可能性が十分に認められるので,A協会との交渉には積極的に対応することが好ましいが,上記のとおり交渉に応じなければならないとする法的な義務があるとまでは認められず,債権者には交渉に応じるか否かについての選択権があり,交渉に応じないことに正当理由は不要であると解するべきであるから,交渉に応じなかった原告の対応に違法な点は認められない。
また,被告は,訴えの提起は訴えられた者に対して時間的,経済的,精神的に多大な負担を与えるものであるところ,原告はA協会との交渉を正当な理由なく拒否し,本訴を提起しているから,平穏な生活を営む被告の利益を害するものとして,原告の一連の行為は不法行為を構成する旨主張している。
しかしながら,原告にあっても,A協会に対し,被告本人又は代理人とであれば,交渉に応じるという考えを有していたのであるから,被告にあってはA協会から助言を受けて原告と交渉することが可能であったが,A協会と原告の交渉に固執したために被告と原告の交渉が進まず,同年7月を最後に被告からの支払いがなかったことから,原告は同19年10月23日に本訴を提起したものと認められ,原告には被告が主張するような訴え提起を自制するべき注意義務は生じておらず,原告の本訴提起行為は正当な権利行使と認められ,違法性はない。
3 結論
以上によれば,原告の請求は理由があるが,被告の請求及び抗弁は理由がないから主文のとおり判決する。過払い金に関する判例(利得を損失者に返還させる民法上の請求権について)
返還請求権は,利得者が法律上の原因なくして有している利得を損失者に返還させる民法上の請求権であるから,その利息は,原則として,民法所定の年5分によるべきであるが,利得者が商人であり,利得物を営業のために利用して収益を上げていると解される場合は,利得者には商事法定利率の年6分の割合による運用益が生じていたものと考えるのが相当で,このような場合には,例外的に年6分の利率によるべきである。
本件では,被告は,貸金業を営利目的で行う商人であり,各弁済時点で発生した過払い金を原告に返還しないで,その分を営業のために利用して収益を上げていたものと認められるため,上記のとおり,利息の利率は,商事法定利率である年6分とするのが相当である。
3 争点(3)(過払い金の充当)について
(1)証拠(甲1の2,乙6)によれば,原告と被告との取引は,継続的に貸付と弁済が繰り返され,全ての取引が同一の会員番号によって管理され,同一の表に続けて入力され,残元金も通算して計算されていることが認められ,実質的に全体として継続的な一連の取引であると認められる。
そして,上記のような継続的な取引では,弁済によって過払い金が発生した場合,特段の事情のない限り,民法489条及び491条に従って,弁済当時存在する他の借入金債務に充当されていくと解される(最高裁平成15年7月18日判決)。
この点,弁済によって過払い金が発生した時点で,充当すべき他の借入金債務が存在しない場合,その後に生じた借入金債務に充当を認めるべきかが問題となるが,弁済時に充当すべき借入金債務が存在すれば充当を認め,存在しなければ充当が生ぜず,単に過払い金返還請求権を行使し得るに過ぎず,新たな貸付に高利の利息が発生するというのでは,借主にとって弁済時点での過払い金返還請求を事実上期待できない現状では,均衡を失することになること,上記のような貸付と弁済が繰り返される継続的な取引では,過払い金発生時点で,他の借入金債務が併存しているか否かは,全くの偶然に左右される事柄であり,両者の取扱いを異にする合理的理由に乏しいこと,過払い金返還請求権と貸付債権を併存させて複雑な権利関係とするのが取引当事者の合理的意思ともいえないことから,上記のような充当も認めるのが相当である。
(2)本件では,平成元年2月1日時点で発生していた過払い金は,その発生時点では充当すべき他の借入金債務が存在しておらず,充当すべき借入金債務が約5年経過後の平成6年4月25日に生じているものの,(1)のとおり,管理及び計算の一体性及び当事者の同一性から,全体が継続的な一連の取引と認めるべきであり,その後,過払い金返還請求権と貸付債権を併存させて複雑な権利関係とするのは,他の場合との均衡,当事者の合理的意思から相当ではなく,充当計算すべきであり,これを否定すべきであるとする被告の主張は採用できない。
4 争点(4)(消滅時効の成否)について
前記3(1)の認定のとおり,原告と被告との取引は,継続的に貸付と弁済が繰り返され,実質的に全体として継続的な一連の取引であると認められ,弁済時に生じた過払い金は,次の貸付金に次々に充当されていき,前の過払い金が充当によって消滅し,新たに過払い金が発生することになるので,平成元年2月1日以前に発生した過払い金返還請求権がそのまま充当されずに10年間存在していたわけではなく,上記過払分が時効消滅した旨の被告の主張は理由がない。
5 以上検討した次第であるので,原告は,別紙計算書のとおり,過払い金返還請求権及び利息の支払請求権を有するものと認められるため,原告の請求は理由がある。
渡対価から,当該債権の元金残高相当額を控除するという調整を行うことを規定しているものであり,同第3条3. 2 (2)は譲渡対象債権の経済的価値の評価に係る調整規定に過ぎず,原告の主張を根拠付けるものではない。
そして,仮に譲受対象債権がみなし弁済の不成立により消滅したとしても,その効果は債権回収の不奏功をもたらすに留まり,債務引受の合意がないにもかかわらず,譲受人が譲渡人の過払い金返還債務についてまで責任を負う理由は何ら存しない。よって,被告が,旧ハッピーとの間で過払い金返還債務は承継しない旨合意する一方,原告ら顧客に対する譲受債権を行使することは,何ら矛盾する行動ではない。
実際,消費者金融業の事業再生スキームとして実行される営業譲渡の際に既発生の過払い金返還債務を引き受ける旨の合意がされることなどあり得ない。
また,本件のように譲渡人の清算を前提とした事業再生スキームにおいては,譲渡人の偶発債務の承継を遮断する見地から例外なく営業譲渡が利用されているところ,この場合,当然ながら,営業譲渡代金は資産のみを承継することを前提に算定され,かかる営業譲渡代金が譲渡人の債権者に対する配当原資となる。
そして,譲渡人の清算手続における過払い金債権者の取扱いは破産裁判所等の判断事項であり譲受人側の関知するところではない。
少なくとも,資産のみを承継することを前提に対価を払い込んだ譲受人が追加的負担を余儀なくされる理由など全くない。
なお,被告が,旧ハッピーの営業資産の劣化を防ぐため,迅速な対応が要請されていた営業資産の譲受にあたって, 5万件以上ある貸付債権につき,個別にみなし弁済の成否及び過払い金額の判断を行うことなど非現実的で不可能であったし,被告においてかかる調査・判断を行う義務を負っていたものでもない。
この点,原告は,事前の調査の内容としては,数個のサンプルを調査すれば十分であるなどと主張するが,貸付状況は千差万別であり,どの顧客に対する貸付をサンプルにすべきかなど容易に判断できるわけもない。
さらに,原告は,旧ハッピーに対する過払い金返還請求権を,旧ハッピーに対して行使することが可能だったのであるから,債権譲渡により借主が不利益を被ったものではないし,原告が上記過払い金返還請求権を被告に対しても行使できることになれば,借主は本件営業譲渡前よりも造かに有利な地位に立つことになって不合理である。また,企業の破綻処理における債権者間の公平も害する。
そもそも,金銭消費貸借契約は,実際に借入れが行われる都度,個別に新たな債務が発生するのであり,原告・被告間の金銭消費貸借包括契約証書(乙6)にも,個別の金銭消費貸借契約を全体として一連・一体の契約として取り扱うことを前提とした条項や記載は「切なく,このような合意がされたこともないから;本件各取引を一連・一体のものと考えることはできない。
また,原告についての契約番号が枝番等になっているのは,単にコンピューターシステム管理の整理上の便宜にすぎない。
さらに,過払い金返還請求権は攻撃方法であって防御方法ではないから,「弁済の抗弁」等の抗弁権と同一に論じることはできない。
そして,本件では,原告に被告の明石支店に来店してもらい,被告従業員が,原告に対し,被告の「債権譲渡・譲受通知書」 (乙1の1,以下「本件通知書」という。 )の内容について説明し,債権譲渡が行われた旨の通知を行い,以後は,被告が取引先となる旨説明したという事情があり,さらに原告には本件通知書に署名してもらい,上記債権譲渡について異議なき承諾をしてもらっている。
なお,契約上の地位の移転があっても,別途,債務引受の合意がない限り,過払い金返還債務は承継されないから,これについて免責登記の有無が問題にならないのは当然である。
次に,商法2 8条に基づく主弓削こついては,以下のとおり,反論ができる。
すなわち,被告の貼り紙(乙15)は, 「弊社(新)ハッピークレジット株式会社は,平成1 2年6月1日付をもちまして(旧ハッピークレジット抹式会社及び株式会社スカイ)より営業債権の譲渡を受け新たにスタートすることになりました。 」との内容が記載された「官業債権の譲渡に関する」文書であり, 「営業譲渡」に関する記載さえ一切存在しないのであって,当該文書から社会通念上「営業譲渡に際して債務引受がされた」と債権者一般が信じるような事態は生じえないから,これが債務引受の「広告」に該当しないことが明らかである。また,商法2 8条は商号続用の場合に適用がないことも明らかである(仮に適用があるとすれば,免責の登記が無意味な制度となる )。
そして,被告は,商法2 6粂2項に規定される免責登記をしたうえ,上記のとおり,原告を含む個々の顧客に対して,旧ハッピーから被告への営業債権の譲渡を告知すると共に債権譲渡の承諾をいただいており,旧ハッピーと被告とが同一主体ではないことを明示したのであって,他方,被告が旧ハッピーの債務につき履行するかのような行動を取ったことはないのであるから,被告が旧ハッピーの既発生債務は承継しないと主張することは何ら信義に反するものではない。
また,被告は適正な対価と引換えに旧ハッピーの営業資産を譲り受けているのであり(当然ながら,旧ハッピーから譲り受けるべき「資産」の算定に際して,承継されることのない債務の存在は考慮に入れられていない。 ) ,被告が旧ハッピーの債務を承継すると解釈しなければ被告が不当に利する結果となるといった事情も全くない。
そもそも,旧ハッピーの営業資産の譲渡並びに破産手続は,幸福銀行グループの破綻処理の一環として,金融再生委員会及び金融整理管財人の示唆に基づき,所轄官庁の監督の下,複数の候廟者との間でのスポンサー選定交渉やデューディリジェンス筆の一連の手続を経て実行されたものであり,被告が信義則違反のそしりを受ける謂われなど全くない。
破綻企業の支援企業に対してリスクや責任を負わせることなど本末転倒も甚だしく,被告に過払い金返還債務の負担を負わせるようなことになれば,全国各地の裁判所で行われているスポンサー型の事業再生などおおよそ不可能となる。
なお,旧ハッピーの破産手続において, 3件の過払い金返還請求権の破産届がされ(乙5) ,旧ハッピーの被産管財人及び破産裁判所がこれを旧ハッピーの破産債権として扱っていることは,破産手続において,旧ハッピーから被告に過払い金返還債務が承継されていないことが前提となっていた事実を如実に表している。
また,商法10条にいう「支店」とは,名称のいかんによるものではなく,実質に従って客観的に決定されるものであり,その場所に付された名称が「支店」となっていても,他の営業所の指示命令に従って機械的に取引を行うに過ぎない場所は支店ではない。
そして,被告の「明石店」は,わずか従業員6名で,店頭窓口・自動契約受機 ATMを備えただけの,単なる「店舗」であり,商法10条の支店には該当せず,支店登記を要しない。
なお,明石店の店長の役割は従業員に対し顧客とのやりとりのロールプレイングを教示したり,その実践について指示することであって,そのような事実上の行為を「指揮」ということはできないし,人事権もない。
また,明石店には消耗品の購入を除いた独自の経費支出も認められておらず(従業員の給与の支払も本社が行っていた。 ) ,何より,貸付けに関して5 0万円の枠内で,しかも本社の貸付基準に沿った貸付けしかすることができない。
銀行預金口座を開設して送金を受ける機能は営業所としての実質を有する支店でなければ認められないものではない。
さらに,明石店が行っていた回収業務は簡単なものに限られており(はがきの送付や訪問での回収) ,訴訟等の法的手続は全て本社の判断により行っている。
また,明石店にはキャンペーンを実施するなどの権限もなく,営業活動は本社の指示を受けて行っていた。そして,合意管轄についての契約書上の規定や被告が貸金業登録に明石店を支店として届けていることは,明石店が商法上の支店であるかどうかとは関係がない。
また,本件譲渡契約においては, 「債務につき一切引受けない」旨明記されているから,本件営業譲渡により,被告が旧ハッピーの原告に対する過払い金返還債務を引き受けたなどという効果が生じる余地はない。
イ 過払い金返還債務に付すべき法定利息の利率
伊)原告の主張
旧ハッピー及び被告は,いずれも,顧客との間の利息制限法超過利息の受街が貸金業法4 3条1項のみなIL弁済の要件を備えないことを知りながら,原告から元本及び利息の収受をしたものであり,民法7 0 4条の悪意の受益者である。この悪意の受益者である被告及び旧ハッピーは,いずれも株式会社であり商人である。
しかも貸金業者であり,金銭の運用自体が営業の目的である。
このように利得者が商人であり,利得物を営業のために利用し収益をあげていると解される場合には,利得者には商事法定利率の年6分の割合による運用益が生じたものと考えるのが相当であるから,過払い金に付して返還すべき利息は年6分の割合による利率で計算すべきである。
抑 被告の主張
争う。
過払い金返還請求権は,契約関係によらず,法律(民法)の規定によって発生する債権であるから,これを商行為に準ずるものと解することはできない。
約定利率に基づく請求等が不法行為に該当するか
原告の主義
l日ハッピー及び被告が,法律上無効であり債権が存在しないにもかかわらず,約定利率に基づく請求をし元利金を支払わせた行為は,被告の原告に対する不法行為であり,被告の不法行為による過払い金支払の損害回復を図るため,原告は,原告訴訟代理人弁護士に本件訴訟の追行を依頼した。
そこで,これについての弁護士費用1 0万円も損害として認められるべきである。
すなわち,貸金業者は,いわゆるみなし弁済が成立しないため,借主が債務を完済し,その後の支払については過払い金となるため,その受額を正当化することができなくなった場合,借主に対して,その旨を告知する信義則上・条理上の義務がある。
そのような告知をせずに金員を受街したものには不作為による不法行為が成立するというべきである。
また,旧ハッピー及び被告の行為は,資金需要者の窮乏につけ込み,・法に違反する高利の契約をさせ,その約定の返済を迫ったのであり(特に,被告は「旧ハッピーが原告に債権を有し,被告がそれを譲り受けて債権者になった」との虚偽の事実を告げている。 ) ,加害行為として十分な違法性を有している。
そして,最高裁平成1 8年1月1 3日第2小法廷判決は,、利息制限法の超過利息を払わないと借主が期限の利益を喪失するという特約について,制限超過部分を支払うことを債務者に事実上強制することになるものというべきであるとした。原告と被告との間の消費貸借契約においても,同様の特約がされているのであるから, 「任意の支払」を理由として不法行為の成立を否定することはできない。
なお,被告は,旧ハッピーの不法行為によって生じた損害を利用し,これを補充する意思で利息制限法違反の利息を収受するという違法行為を行ったのであるから,いわゆる承継的共同正犯の理論により,旧ハッピーとの共同不法行為が成立すると解すべきであるから,旧ハッピーの責任と被告の責任を別個に考える必要はない。
そして,被告は,契約上の地位の譲渡を受けた後,出資法上のみなし利息に当たる契約書貼付の印祇代を徴収したうえ,印紙代を差し引かない元本に年利29. 2パーセントの割合による利息を付しているのであり(甲56の1, 1 68参照) ,被告の行為が出資法に違反することは明らかである。
出資法違反には罰則規定が設けられており,出資法は貸金業者が最低限遵守しなければならないものであることからすれば,被告がこれに違反する契約を締結した以上,被告の行為は不法行為に該当するというべきである。
抑 被告の主張
争う。
原告は,任意に被告から借入れと返済を行ったものであり,そもそも借入れを行うか,また借入先を被告にするか否かの決定権は専ら原告にあったのであるから,不法行為が成立する余地はない。
また,いわゆるみなし弁済の成否は法的判断であり,貸主側に「みなし弁済の不成立」という一方的に不利益な判断を常に強制して,その告知義務を課すということは,契約当事者間の衡平を著しく害するもので不当である。
なお,被告は契約締結や債権回収にあたって暴力的な行動など一切取っていないし,資金需要者の窮乏につけ込んでもいない。
また,旧ハッピーとの間の旧借入れについての取引が不法行為に該当するとしても,上記のとおり,その債務が被告に引き継がれることはない。
原告の主張する承継的共同正犯の理論は,補充する意思が不明確であり,かつ,刑事法においても制限的にしか認められていない議論を無批判に流用するもので不当である。
そして,被告は, 2 9. 2パーセントの利率により金銭消費貸借取引を行う場合,顧客から印紙代を徴収しておらず,原告からも徴収していない。
ホームページ(甲1 6 8)や契約書上において顧客負担とする旨の記載があるのは,出資法等の制限利率を超えない場合には顧客より印紙代を徴収する場合があることから,このような場合に備えて統一的に契約書に規定してあるに過ぎない。
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